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二十五章 「何を恐れているの?」

Auteur: 桃口 優
last update Dernière mise à jour: 2025-06-25 02:56:36

「華菜のことを、また考えられていなくてごめん」

 そう言いながら、僕は彼女に謝ってばかりだと気づいた。

 僕は、謝ることは嫌ではない。

 でも、謝られることも人によってプレッシャーに感じることもあるのだろうか。

 何度も申し訳ない顔を見ることを、気まずく思う人もいるかもしれない。

「謝ることじゃないよ」

 彼女は、はっきりとそう言った。

 でも、それは僕をかばっているのではないとすぐにわかった。

 彼女の意志は、強くて変わらないようだ。

 僕は、空を見上げた。

 僕は、一体どうしたらいいのだろう。

 彼女の気持ちや思いを聞き、彼女のためにどうしたらいいか考えてきた。それらはすぐにはうまくできなかったけど、少しずつ彼女の心に近づいている気がしていた。

 でも、僕はまた間違えたようだ。

 いや、彼女の言う通りで、誰かが誰かを救うことは本当にできないのだろうか。

 答えはまだわからない。でも、僕は救えないことにどうしても納得することができなかった。

 いつのまにか太陽は沈み、うっすら暗くなってきている。

 彼女を探しに外に出た時は、まだ昼間だった。それから彼女を見つけ、今もずっと話をしている。

 かなり長い間外で話していると僕は気づいた。

 話し合いをすることはとても体力のいることだし、さらに外にいるとどうしても気を張って疲れてしまうものだ。

「まだ話は終わってないけど、寒くなってきたから僕の家に戻らない?」

「うん」

 彼女が僕の言葉を受け入れてくれたから、僕たちは家に向かって歩き出した。

 帰っている間手は繋いでいたけど、僕たちは特に会話をしなかった。きっと彼女も疲れていたのだろう。

 僕は、その間に救うことについて考えていた。

 彼女にプレッシャーを与えず、救うにはどうしたらいいのだろうか。

 彼女の辛いこと、抱えているもの、彼女の気持ちを知った。

 僕が頼りにしていた『言葉』だけでは、彼女を救うことはできなかった。

 また、いくら思いが強くても、それが相手に届かないようでは意味がないとわかった。

 もしその思いをちゃんと何かの行動にすることができれば、彼女の心に届くのではないだろうか?

 常識にとらわれず客観的にもう一度彼女の苦しみについて考えてみることで、あることに僕は気づいた。

 彼女を探している時ははてしない時間のように感じていたのに、帰りはすぐに家に着い
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